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【FactCheck】「政策活動費は記載しなくて良い」は不正確

【FactCheck】「政策活動費は記載しなくて良い」は不正確

自民党・安倍派(清和政策研究会)などの政治資金パーティーをめぐって東京地検特捜部が強制捜査に乗り出した事件で、メディアに出る識者から、党本部から支払われる政策活動費については記載する必要がないとの趣旨の発言が聞かれる。メディアもそう報じている。しかし、「政策活動費」について法に定めが有るわけではなく、政党から政治家個人に支払われる全ての資金に記載の義務が無いというのが実態だ。このため、「政策活動費は記載しなくて良い」との指摘は不正確だ。

対象言説 「政策活動費は記載しなくて良い」

結論  【不正確】

InFactはレーティングをエンマ大王で示している。これ2エンマ大王となる。

エンマ大王のレーティングは以下の通り。

  • 4エンマ大王 「虚偽」
  • 3エンマ大王 「誤り」
  • 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
  • 1エンマ大王 「ほぼ正確」

InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。

ファクトチェックの詳細

自民党の安倍派「清和政策研究会」、二階派「志帥会」のパーティー券をめぐって東京地検特捜部が強制捜査に乗り出した事件では、キックバックを受け取って自らの政治資金収支報告書(以下、収支報告書)に記載していなかった議員が、「派閥から『政策活動費の名目なので、収支報告書に記載しなくてもいい』と言われた」などと周囲に語っていることがメディアで報じられている。

これについて識者の中には、「政党から議員個人に支出される政策活動費は記載しなくても良いが、派閥から支払われるものはそれとは違う」といった趣旨の説明をする人もいる。一部のメディアでは、「政策活動費とは、政党から政治家個人に渡されるお金で、領収者や使い道を公表する義務がありません」と報じられており、それが識者の発言と符合するものとなっている。このため、これは「政策活動費」という特殊な用途に使う支出だから記載を免除されているとも理解されがちだ。そういうことなのか?その点をファクトチェックする。

InFactはこれまで政治資金の問題を追及してきた。その中で、「自民党本部から二階幹事長に流れた37億円超の闇」など、この「政党から政治家個人に渡される」「政策活動費」について問題を指摘してきた。その際の取材の内容も紹介しつつ、政治資金規正法に基づいて確認したい。

この「政策活動費」については多い議員は一度に数千万円、年間で億を超える金額になる。自民党以外の政党でも行っているところは有るが(「自民に比して少額だが野党にも流れる「政策活動費」)、自民党は金額が桁違いに大きい。幹事長には年間複数回に分けて10億円前後が支払われ、他の有力議員も数千万円規模で支払われている。そして、受け取った議員は自らが代表を務める政党支部や政治団体の収支報告書に一切記載していない。

なぜこのようなことが認められるのか。InFactは以前、自民党本部に取材をしている。その時の回答は以下だ。

「わが党の『政策活動費』は、党に代わって党勢拡大や政策立案、調査研究を行うために、従来より党役職者の職責に応じて支出しているものであり、政治資金規正法および関係法令に則って適正に処理しています。その詳細につきましては、総務省で公表されている党本部の収支報告書の記載のとおりであります。

 なお、法律上求められている収支報告書の記載事項以上の内容につきましては、同法が配慮する政治活動の自由に鑑み、従来より回答は差し控えさせていただいています。」

この回答通り、自民党本部の収支報告書には支出欄にその詳細が記載されている(上記、写真)。問題は、受け取った政治家の側が自らの収支報告書に一切記載せず、その結果、その資金が闇に消える点にあるが、それについては回答していない。

ところで、政治資金規正法には「政策活動費」について特段、記載は無い。自民党が主張する「党に代わって党勢拡大や政策立案、調査研究を行うため」などと法律に定義がなされているわけではない。また、「報告書の提出」について書かれた第十二条を確認してみると、「党費」「会費」「寄付」「機関紙の収入」「パーティー収入」などについて「記載した報告書」を提出しなければならないとしているが、「政策活動費」について何も書かれていない。そもそも記載の要不要が書かれていないということだ。

では、政治資金規正法を所管する総務省はどう考えているのか。InFactは以前、総務省選挙部政治資金課に確認している。その際の回答が以下だ。

「政治団体が個人あてに支出した際、あくまでも支出した団体が記載していて、受け取った個人がそれを公開しないといけないという規定はありません」

規定が無い。だから政策活動費を受け取った政治家は自らの収支報告書に記載する必要は無いということだ。どういうことか?

政治資金規正法では、収支報告書の提出義務を政治家個人に義務付けていないのだ。収支報告書の提出について規定した第12条には政治団体のことしか書かれていない。政治家個人については書かれていないのだ。

そこには理由が有る。政治資金規正法で次のように書かれている。

「何人も、公職の候補者の政治活動に関して寄付をしてはならない。」

第21条の2だ。「何人」も「寄付をしてはならない」とは、逆に言えば、公職の候補者である政治家は寄付を得てはいけないということだ。従って、政治家個人は収支報告書を提出する必要は無いという理解になる。ここで総務省の回答に疑問が生じる。総務省は「受け取った個人(政治家)がそれを公開しないといけないという規定はありません」としているが、そもそも政治家個人が寄付を受けてはいけないというのが法律だ。なぜ自民党から有力議員には大金が「政策活動費」として流れ、それを総務省が認め、それを理由に「政策活動費は記載しなくて良い」との説明がまかり通って来たのか?

実は「寄付してはならない」の条文には続きが有るのだ。第21条の2の第2項だ。

「前項の規定は、政党がする寄付については、適用しない。」

この「適用しない」との条文よって法律が完全にザルと化したことがわかるだろう。つまり、政党からは、政治家個人に寄付することが認められているのだ。自民党で多額の毎年「政策活動費」が有力政治家に配られて消えていくのは、この条文によって成り立っているわけだ。そして、それが政治家個人について収支報告の規程が無い部分と相まって、多額の政治資金が闇に消える仕組みが完遂する。

ここで気づかされるのは、「政策活動費」などともっともらしい名目になっているが、これは「遊興費」でも「飲食費」でも「政党がする寄付」であれば受け取った政治家は記載する必要が無い。そして、その結果、自民党に於ては年間10億円を超える資金が党本部から有力政治家に支払われ、そして闇に消える。

つまり、「政策活動費」だから収支報告書に記載しなくて良いということではない。政党から政治家個人に出された寄付は全て収支報告書に記載しなくて良いことになっているからだ。それ故、「政策活動費は記載しなくて良い」は不正確だ。

一連の事件の発端の一つとなった刑事告発を行った神戸学院大学の上脇博之教授は次のように話している。


「公職の候補者で収支報告制度があるのは、立候補者の選挙運動費用収支報告書です。これは、公選法で収支の報告が義務付けられています。ですから、公職の候補者が政党であれ、政治団体であれ、選挙運動資金の寄付を受ければ選挙運動費用収支報告書に寄付の受領を記載しなければなりません。ところが、選挙運動資金以外の政治活動のための寄付を公職の候補者個人が受領した場合、収支報告制度がありません。政党がこの寄付をした場合、政治資金規正法では合法と解釈されていますが、政治団体がその寄付をした場合、同法で違法です。しかし、政治資金規正法の趣旨から考えたら、政党から政治家個人に寄付した資金も報告義務を課す必要が有るでしょうし、それができないのであれば、政党から政治家個人への政治活動のための寄付も禁止する必要が有るでしょう。」


最後に政治資金規正法の理念を挙げておく。第二条だ。

「この法律は、政治資金が民主政治の健全な発達を希求して拠出される国民の浄財であることにかんがみ、その収支の状況を明らかにすることを旨とし、これに対する判断は国民にゆだね、いやしくも政治資金の拠出に関する国民の自発的意思を抑制することのないように、適切に運用されなければならない。」

(立岩陽一郎)

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