自民党の安倍派などで議員がキックバックを受けていた事件で、多くのメディアで「キックバック自体は問題ない」とする報道がなされている。しかし、これは正確さを欠く表現であり、ミスリードだ。
対象言説 「キックバック自体は問題ない」とするメディアの報道
一例)「不記載3500万円以上」だけ立件されたのはなぜ? 「共謀」を認定するのは難しい? 東京地検の言い分は:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
以下が、記事内の対象言説。ただし、東京新聞は一例であり、他の主要メディアも同じような記述となっている。
結論 【ミスリード】
InFactはレーティングをエンマ大王で示している。
「ミスリード」であり、これは2エンマ大王となる。
エンマ大王のレーティングは以下の通り。
- 4エンマ大王 「虚偽」
- 3エンマ大王 「誤り」
- 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
- 1エンマ大王 「ほぼ正確」
InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。
ファクトチェックの詳細
この写真を見て頂きたい。これは1月31日に訂正された内容が公開された清和政策研究会(安倍派)の政治資金収支報告書(以下、収支報告書)だ。
その支出欄に、キックバックを受けていた政治団体が加筆されている。ところが、支払われた日付を見ると、「不明」と書かれている。ここが今回のキックバックの問題だ。
仮に、各政治家の団体が受け取っていたものの記載をしていなかったというのであれば、支払われた日付、つまり政治家の団体側は受け取った日付はわかる筈だ。それぞれの団体の管理は会計責任者が行っていて、仮に政治家が覚えていなくても資金の出し入れを確認している筈だからだ。
しかし、この訂正は、そうはなっていない。「不明」とは、団体の会計責任者が把握していない資金のやり取りだったことを物語っており、そうなった理由は、団体が受け取った寄付ではなく、政治家個人が受け取った寄付だったからだと考えるのが自然だ。
政治資金規正法の21条2には以下のように書いてある。
「何人も、公職の候補者の政治活動(選挙運動を除く。)に関して寄付(金銭等によるものに限るものとし、政治団体に対するものを除く。)をしてはらない。」
つまり、政治家個人が寄付を受けてはいけない。仮にキックバックが政治家個人に対するものであれば、当然、それは違法となる。
ところで、一連の問題が発覚した際、キックバックを受けていた議員は収支報告書に載せていなかった理由について、「政策活動費」として受け取ったので収支報告書に載せなかったと釈明していたことが報じられている。
この「政策活動費」については、政党本部から政治家個人に渡される一種の掴み金だ。それが可能とされるのは、この政治家個人への寄付を禁じた21条2には、更に続きの2が有るからだ。
「前項の規定は、政党がする寄付については、適用しない。」
つまり政党から政治家個人に行う寄付は認められているということで、自民党では毎年多額の資金が幹事長など有力議員に配られ、収支報告書に記載されず事実上の裏金となっていることは、InFactがこれまでの記事で報じた通りだ。
つまり、「政策活動費」として受け取ったという釈明は、そのものが、政治家個人が受け取ったということになる。少なくとも自民党においては、「政策活動費」とは政党から政治家個人に配られる寄付のことだからだ。
つまり、収支報告書の訂正の内容、問題発覚当初の政治家の釈明から考えて、「キックバック」は団体に対してなされたものではなく、政治家個人になされていた可能性が極めて高いということだ。繰り返すが、政党以外からの政治家への寄付は選挙活動に関するもの以外は認められていないというのが政治資金規正法の定めるところであり、これは違法な行為だ。
それ故、「キックバック自体は問題ではない」とは言えない。「派閥から議員の関連団体への寄付として政治資金収支報告書に記載すれば適法」は間違いではないが、そもそも政治家個人は収支報告書を提出する義務が無いという点も踏まえれば、一連の報道は誤りとまで言えないものの極めてミスリードな内容と判定せざるを得ない。
(立岩陽一郎)