2016年の東京都知事選挙で、小池百合子氏は「高齢者・障がい者の働く場所を創出。ソーシャルファームの推進」との公約に掲げていた。高齢者・障がい者雇用は過去最高水準だが、まだ日本で馴染みの薄い「ソーシャルファーム」の推進にどれだけ力を入れたのかも検証してみた。(宮原ジェフリー)
検証対象の公約内容
高齢者・障がい者の働く場所を創出。ソーシャルファームの推進。
(2016年都知事選の公約「スマートシティー」(4))
検証
小池氏は知事就任後の所信表明でも「ソーシャルファーム」に触れ、「障がいのある方を社会全体で支えるだけでなく、意欲や能力のある方々の自立への思いもしっかりとバックアップして」いく、と決意を語っていた。(平成28年第三回都議会定例会知事所信表明)
障がい者雇用は9年連続過去最高
東京労働局が6月22日発表した資料によれば、2019年の障がい者の就職件数は7,467件で、これは9年連続過去最高の数値である(冒頭のグラフ参照)。
ただし、労働政策研究・研修機構のホームページにあるように、全国的に障がい者雇用は増加し、東京都でも小池都政以前からのトレンドではあるが、実績として評価するに値するだろう。
高齢者の雇用も東京都の資料によれば、次のとおり増加している。
「ソーシャルファーム」推進に着手したのは4年目
日本では、「ソーシャルファーム」という概念はまだなじみがない。そもそも「ソーシャルファーム」とは何なのか(NHK解説記事も参照)。
東京都は2019年12月に「都民の就労の支援に係る施策の推進とソーシャルファームの創設の促進に関する条例」を制定したが、その中で次のような定義が規定されている。
「事業者による自律的な経済活動の下、就労困難者と認められる者の就労と自立を進めるため、事業からの収入を主たる財源として運営しながら、就労困難者と認められる者を相当数雇用し、その職場において、就労困難者と認められる者が他の従業員と共に働いている社会的企業」(第10条)
条例の成立にあたりこの定義が曖昧であり、予算額も大きい(当初22億円予算要求し、成立した予算では9億円)ことなどを理由に共産党などが条例案の反対した(日本共産党東京都議会議員団ホームページ)。
今年6月17日にソーシャルファームの認証・支援に関する指針(ガイドライン)が策定され、これからようやく始まる状況だ。2016年8月に知事に就任してから2019年12月に条例が制定されるまでの3年余り、「ソーシャルファームの推進」に関連する取り組みをした形跡がない。任期満了前になって慌てて、「条例制定」という形で公約を実現した可能性がある。
結論
障がい者雇用については小池都政以前から増加傾向にあったところ、その勢いを落とさず取り組みを続けたことは一定の評価ができる。
ソーシャルファームについては知事就任から3年余り特段の施策は行っておらず、昨年暮れにようやく全国に先駆けて条例化し、推進に向けた第一歩を開いたことは否定できないが、本公約に関する取り組みの評定は「良」とした。