日本政府が新型コロナウイルスで落ち込んだ観光客を呼び戻すために、補正予算で「Go To キャンペーン」を実施することを決めたが、外国人の旅費の半額を補助するという情報が海外で拡散した。来日渡航費を補助するものではないが、外国人の国内旅行の一部は補助の対象となることがわかった。(楊井人文)
外国人観光客を引っ張るために、日本政府は、観光客の旅費の半分を支払うための1兆3500億円の基金を検討している
(中国版SNS微博=原文は中国語=、2020年6月29日投稿)
【不正確】 新型コロナ対策で旅費補助を行う「Go To キャンペーン」は、日本の国内旅行の需要を喚起するためのもので、外国人旅行客の来日旅費を補助するものではない。ただ、来日した外国人が国内旅行をする際も補助の対象となる場合があり、外国人が一律に補助の対象外というわけではない。
この投稿は、中国のSNSウェイボ(微博)とウィーチャット(微信)に掲載されたものだ。新型コロナウイルスの感染拡大は観光産業に多大なダメージを与えていることを受け、日本政府が観光需要喚起策「Go To キャンペーン」を実施し、「外国人観光客を訪ねてもらうため、日本政府は旅費補助キャンペーンを検討している」という情報が中国で拡散した。
補正予算で組まれた「Go To トラベル事業」とは
日本政府は、新型コロナウイルス対応の緊急経済対策として、事業費1.7兆円の「Go To キャンペーン」を補正予算で盛り込んだ(第1次補正予算、4月30日成立)。
「Go To キャンペーン」には観光・飲食・イベント・商店街の4種類がある。このうち、旅行需要を喚起するための「Go To トラベル」事業を所管する観光庁の予算案資料には、次のように書かれていた。
旅⾏業者等経由で、期間中の旅⾏商品を購⼊した消費者に対し、 代⾦の1/2相当分のクーポン等(宿泊割引・クーポン等に加え、 地域産品・飲⾷・施設などの利⽤クーポン等を含む)を付与(最⼤ ⼀⼈あたり2万円分/泊)。観光庁補正予算(2020年4月)
つまり、ここで、代金の半額相当の宿泊割引・クーポン等が付与されるのは「旅行業者等経由で、期間中の旅行商品を購入した消費者」となっている。これだけを見ると、外国人の訪日観光客も対象になるのかどうかは、一見して定かではない。
インバウンド需要喚起目的ではない
実は、観光庁は、5月27日、「日本政府は、外国人旅行者に日本を訪れて頂くため、旅行費の半額を支援するキャンペーンを検討している」との報道に事実誤認に基づく内容が含まれているとして、次のような発表を行っていた。
ツイッターでも次のように海外向けに発信していた。
the Go to Travel Campaign under consideration by the Japanese government is to stimulate domestic travel demand within Japan after the Covid-19 pandemic and only cover a portion of domestic travel expenses.(2/2)
— 観光庁(Japan Tourism Agency) (@Kanko_Jpn) May 27, 2020
つまり、「Go To トラベル事業」はインバウンド需要を喚起することが目的ではなく、あくまで「日本国内での旅行需要喚起」を目的に「日本国内における宿泊旅行の費用等」(domestic travel expenses)を支援するものだということだ。
訪日外国人の国内旅行・宿泊は補助の対象に
観光庁の発表文には「日本国内居住者を想定し」と書いてある。これは、外国人旅行客はこのキャンペーンの恩恵を全く受けられないことを意味するのか。念のため、観光庁総務課に確認したところ、
日本国内で旅行する外国人観光客を支援対象から除外しているわけではない
との回答があった。すなわち、来日する際の渡航費は補助の対象とならないが、来日した外国人が日本国内で旅行する場合の旅費はこのキャンペーンによる補助の対象になる可能性がある、ということだ。
ただし、最近観光庁から発表された資料によれば、このキャンペーンの利用には条件がある。まず、日本人であれ外国人であれ、個人で手配する国内旅行は対象にならない。旅行代理店・予約サイト経由か、宿泊施設に直接申し込みをした場合が対象になる。また、1人1泊あたり2万円が上限(日帰り旅行は、1万円が上限)となる。つまり、1人で1泊2万円の旅行代金がかかった場合は1万円が支援されるが、1人1泊10万円の旅行代金がかかった場合は2万円が上限になる。
海外でも拡散 ファクトチェックにも一部誤解
日本政府が訪日外国人の旅費を支援するとの情報は、中国だけでなく、米国、オーストラリア、フィリピンなどでも広がったようだ(「日本旅行が半額に!? アメリカで盛り上がる大観光キャンペーン」参照)。ファクトチェックも行われた(AFP、日本語版)。
ただ、「旅費補助金制度は日本在住者が日本を旅行するときのみ適用され、外国からの訪問者は対象でない」(オーストラリアのファクトチェック記事)という指摘は誤解だ。上記の通り、外国居住者が日本国内で旅行して宿泊する費用も、キャンペーンの補助対象となるからだ。
結論
日本政府が新型コロナ対策で旅費補助を行う「Go To キャンペーン」の主たる目的は、日本の国内旅行の需要を喚起するためのもので、外国人旅行客の来日渡航費を補助するためのものではない。ただ、来日した外国人が国内旅行をする際の宿泊等は、補助の対象となるため、外国人が全く補助の対象にならないということでもない。よって、対象言説は「不正確」と判定した。
(インファクトはFIJの新型コロナ国際ファクトチェック・プロジェクトに参加している。この記事にはFIJリサーチャーのユウセンブン氏が協力した。)