新型コロナのワクチンをめぐってはその安全性をめぐって議論があり、「陰謀論」とされる指摘も根強く語られている。InFactはその安全性の是非ではなく、政府が安全だとする根拠が十分に開示されているかをファクトチェックする。
厚労省による『ワクチン広報プロジェクト』
これまでInFactでは、新型コロナワクチンに関する広報活動として、厚労省が実施してきた「新型コロナウイルスワクチン広報プロジェクト」の内容を検証してきた(参照)。
ワクチンを接種するか否かを判断するのは、国民一人一人だ。そのため、新型コロナワクチンに関する情報提供が国民に適切に行われているのか、広報プロジェクトの内容がどんなものなのか、は私たちにとっての重要な関心事だ。また、開示がなされずにはワクチンの安全性を云々することも難しい。
そこでInFactでは、「新型コロナワクチン広報プロジェクト」の「透明性」が確保されているのか否か、改めてファクトチェックする。
「広報プロジェクト」の詳細は不明
InFactがこれまで報じてきたとおり、「新型コロナワクチン広報プロジェクト」は、ほとんどの情報が不開示となっており、詳細は明らかになっていない(参照、参照)。しかし、InFactは更なる情報公開を求め、厚生労働省と折衝を行ってきた。
その結果、厚生労働省から、新たに「ワクチン広報プロジェクト」の委託業務完了報告書が開示されることとなった。この「ワクチン広報プロジェクト」は、2021年2月16日から現在に至るまで実施されており、今回、新たに開示された報告書は、2021年2月16日~3月31日(期間①)、2021年7月26日~2022年3月31日(期間②)、2022年4月1日~2023年3月31日(期間③)までの、3つの期間に関するものだ。
もともと、期間②(2021年7月26日~2022年3月31日)と期間③(2022年4月1日~2023年3月31日)の報告書は、以下の理由で、「黒塗り」でもない完全な不開示となっていた。
「報告書には企業の営業上・経営上の情報が含まれており、また企業独自の手法・ノウハウが各所に使われており、法人等に関する情報であって公にすることにより、当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため」
「新型コロナワクチンの接種を安心して受けられるよう国民の理解と信頼が求められる状況において、正確な情報を丁寧に伝えるための広報に関する情報が各所に含まれていることから、公にすることにより、本事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため」
また、期間①(2021年2月16日~3月31日)の報告書については、もともと開示の対象ではなかったが、改めて調査したところ、厚労省が保有していることが判明したため、開示されることとなった。
「報告書」の内容は?
しかしながら、報告書の多くは、黒塗り又は完全な不開示であり、やはり、その内容はほとんど分からない。
「新型コロナウイルスワクチンQ&A特設サイト」等に掲載されたコンテンツは開示されていたものの、部分的に黒塗りとなっていた。
提出された「報告書」は1700頁以上
厚生労働省に問合せたところ、同省はその総ページ数を明らかにした。それによると、「委託業務完了報告書」は全部で1717頁にもわたっていた。内訳は、期間①:103頁、期間②:627頁、期間③:987頁だった。
上記は「ワクチン広報プロジェクト(2021年7月26日~2022年3月31日)」の報告書で、最終ページ数は「627」となっている。赤枠は筆者によるものだ。ワクチン接種が開始された2021年2月から、ワクチンの接種率が低下しないよう、積極的な広報活動が行われていたということだろう。
メディアやSNS上の「誤情報対策」
そして、1700頁以上の報告書のうち、最もページ数が割かれていたのが、「非科学的な情報等に対する対処」という項目だ。
この、「非科学的な情報等に対する対処」は、厚生労働省によるファクトチェックといった、「誤情報対策」を、その内容としている(仕様書によれば、「非科学的な情報等に対する対処」には、主要メディア(テレビ、新聞、週刊誌、ネット)やSNS上で広く拡散されている「非科学的な内容」の報告といった内容が含まれている。)。以下がその内容だ。
報告書中で、「非科学的な情報等に対する対処」に関するページは、黒塗りでもなく、ほぼ全てが完全な不開示となっている。
そこで、厚生労働省に確認したところ、「非科学的な情報等に対する対処」に関する報告書のページ数は、期間毎にそれぞれ、43頁(期間①)、347頁分(期間②)、733頁(期間③)あるとのことだった。
「非科学的な情報等に対する対処」に関する報告が、報告書の多くの分量を占めていることになる。
この分量から推測すると、「ワクチン広報プロジェクト」では、「誤情報」その他の主要メディアやSNS上で拡散していた情報について、かなり細かく収集していたのではないだろうか。
外部有識者(医療系インフルエンサー)も黒塗り
また、今回新たに、「ワクチン広報プロジェクト」でブレーンを務めている「外部有識者(医療系インフルエンサー)」(参照)を選定した際の資料も開示された。この文書は、これまで厚生労働省は存在しないと主張していたが、改めて調査したところ、保有していたことが判明したとのことだ。
「ワクチン広報プロジェクト」の「監修者」となっていることから、本プロジェクト全般に関与していると思われる。
また、新型コロナワクチンという、新たな技術を活用したワクチンに関する専門知識を有している者として、提供される情報の正確性を担保する存在だろう。
しかし、資料の全体が「黒塗り」であるため、一体どういう人物なのかは一切不明だ。ワクチンの広報活動に関する専門的知見がどのように担保されているのかは、国民にとって重要な事実だ。また、金額は不明であるが、「外部有識者」には、活動フィー、つまり報酬が支払われることも予定されている。以下がその資料だ。赤線は筆者による。
報酬が支払われているのであれば、少なくとも、誰が「外部有識者」だったかは明らかにされるべきではないだろうか。しかしながら、この点についても、完全な不開示であって、「ワクチン広報プロジェクト」に「透明性」が確保されているとは言えない。
ファクトチェックの結論 現状では「透明性」が十分とは言えない。
もともと全く開示されていなかった「委託業務完了報告書」が開示されたことで、「ワクチン広報プロジェクト」の情報開示としては、一歩前進した。
しかしながら、開示される資料は、「黒塗り」ばかりで、その内容はほとんど分からず、「透明性」が十分とは言えない。
InFactで最初に、新型コロナワクチンに関する広報活動について情報公開請求を行ったのは、2021年11月29日のことだ。それ以来、2年以上にわたって厚労省に対して更なる情報公開を求めてきたが、未だに「ワクチン広報プロジェクト」の全容は分からない。
前述の不開示通知書には、不開示の理由に、「新型コロナワクチンの接種を安心して受けられるよう国民の理解と信頼が求められる状況」との記載があった。
しかし、黒塗りの資料ばかりで「ワクチン広報プロジェクト」の内容を明らかせずに「国民の理解と信頼」を得るのは困難だろう。むしろ、国民の信頼は損なわれる一方ではないだろうか。厚労省は更なる情報公開に応じ、透明性を確保する必要がある。
(田島輔)
(編集長追記)
InFactでは、議論の是非から離れて、議論の前提となる部分に光をあてるファクトチェックに取り組んでいます。この記事もその一つです。安全か否か、科学的か非科学的かといった議論の前提となる情報開示の在り方はどうなっているのか?InFactは冷静に議論の前提をファクトチェックしていきたいと考えています。