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[Factcheck] 「米CDC、PCR検査は精度が低いので中止」は誤り 新指針の曲解が拡散

[Factcheck] 「米CDC、PCR検査は精度が低いので中止」は誤り 新指針の曲解が拡散

新型コロナウイルス感染症の診断法として、現在日本を始め世界中で広く使われているPCR検査法。そのPCR検査について、アメリカの疾病対策センター(CDC)が中止を決定したという主張がネット上で拡散された。事実はどうなのか、検証した。(大船怜)

チェック対象
#PCR検査 米国CDC『PCR検査は精度が低いので中止します』 このウルトラ大ニュースを未だに日本のマスコミはこれを大きく報道しない(笑) ワイドショーであんだけ『PCR検査が必要だ!もっとやれ!』って言ってたのに、どうすんだコレ? マスコミはコロナ収束させる気ある?
(Twitter一般ユーザー、2021年8月6日投稿。強調は筆者による)
結論
【誤り】 CDCがPCR検査の精度を低いと認めたり、中止を決定したりした事実は無い。

このツイート(冒頭画像)は8月13日現在1700RTを獲得。しかし、ツイートに添付されたYouTube動画は、ガイドライン違反としてYouTube側で削除されている。

削除されたYouTube動画

さらに、同様の主張は運営元不明のニュースサイトである「トータルニュースワールド」や「BonaFidr」、中国系メディアの「大紀元(エポックタイムズ)」などによっても拡散されている。

CDC文書の内容

これらの主張が根拠としているのは、CDCが7月21日に発表した文書である。

しかし、その内容は実際はPCR検査の精度を問題視するようなものではない。CDCがこれまで推奨してきた方式の検査は「新型コロナウイルスのみ」を検出することができたが、新たな方式では「新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの両方」を同時に検出できるということである。これまでの方式において検査精度に問題があったということは全く書かれていないし、新しく推奨される方式にはPCR法も含まれている

文書の日本語訳は後述するので、詳細はそちらを参照されたい。

CDCはPCR検査の有効性を強調

CDCはさらに、上記の文書の内容を明確化するQ&A型式の補足文書を8月2日に発表。その中でも、以下のようにPCR検査の有効性は繰り返し明言されている

Is CDC retiring the CDC 2019 Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-Time RT-PCR Diagnostic Panel because it has produced inaccurate results? 
(筆者訳:CDCは、「CDC 2019 Novel Coronavirus(2019-nCoV)リアルタイムRT-PCR診断パネル」(※訳注:これまでCDCが推奨していた検査方式)が不正確な結果を生むので廃止するのですか? )

No. There are no performance concerns with this test. The CDC 2019 Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-Time RT-PCR Diagnostic Panel is a highly accurate test. It has been used to successfully detect SARS-CoV-2 since February 2020.
(筆者訳:いいえ。この検査に関して性能上の懸念は存在しません。「CDC 2019 Novel Coronavirus(2019-nCoV)リアルタイムRT-PCR診断パネル」は非常に正確な検査です。2020年2月以来使用され、SARS-CoV-2(※訳注:新型コロナウイルスの正式名)の検出に成果を上げ続けています。)
(※後略)

Does the CDC 2019 Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-Time RT-PCR Diagnostic Panel confuse influenza with SARS-CoV-2?
(筆者訳:「CDC 2019 Novel Coronavirus(2019-nCoV)リアルタイムRT-PCR診断パネル」はインフルエンザとSARS-CoV-2を混同しますか?)

No. The CDC 2019-nCoV Real-Time RT-PCR Diagnostic Panel does not confuse influenza with SARS-CoV-2. It is a highly accurate test that detects the presence or absence of SARS-CoV-2 viral genetic material within a patient specimen.
(筆者訳:いいえ。「CDC 2019-nCoVリアルタイムRT-PCR診断パネル」はインフルエンザとSARS-CoV-2を混同しません。これは非常に正確な検査で、患者検体内のSARS-CoV-2ウイルスの遺伝物質の有無を検出します。)

Does the retirement of the CDC 2019 Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-Time PCR Diagnostic Panel mean that the previous results from this test are invalid?
(筆者訳:「CDC 2019 Novel Coronavirus(2019-nCoV)リアルタイムRT-PCR診断パネル」の廃止はこの検査による以前の結果が無効であることを意味しますか?)

No. Results from this test are reliable, valid, and specific to SARS-CoV-2.
(筆者訳:いいえ。この検査による結果は信頼性が高く、有効であり、SARS-CoV-2に特有のものです。)

Are RT-PCR-based tests valid for the detection of SARS-CoV-2?
(筆者訳:RT-PCRによる検査はSARS-CoV-2の検出に有効ですか?)

Yes. RT-PCR-based tests are one type of laboratory-based nucleic acid amplification test (NAAT), which continue to be the “gold standard” of diagnostic testing for COVID-19. Many diagnostic tests for SARS-CoV-2 that have received EUA from FDA use RT-PCR-based tests, including both the CDC 2019 Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-Time RT-PCR Diagnostic Panel and the CDC Influenza SARS-CoV-2 (Flu SC2) Multiplex Assay.
(筆者訳:はい。RT-PCRによる検査は、検査機関が行う核酸増幅検査(NAAT)の一つであり、COVID-19の診断検査の「ゴールドスタンダード」であり続けています。FDAからEUAを受けた様々なSARS-CoV-2の診断検査が、「CDC 2019 Novel Coronavirus(2019-nCoV)リアルタイムRT-PCR診断パネル」と「CDC Influenza SARS-CoV-2(Flu SC2)マルチプレックスアッセイ」の両方を含む、RT-PCRによる検査を使用しています。)

海外ファクトチェックメディアの「FactCheck.org」や「Health Feedback」では、CDCやFDAの担当者が取材に回答し、「PCR検査の精度が低いために廃止された」という主張を明確に否定している。

CDC文書の内容

7月21日の文書について、主要部分を日本語訳とともに以下に紹介する(強調は筆者による)。

After December 31, 2021, CDC will withdraw the request to the U.S. Food and Drug Administration (FDA) for Emergency Use Authorization (EUA) of the CDC 2019-Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-Time RT-PCR Diagnostic Panel, the assay first introduced in February 2020 for detection of SARS-CoV-2 only. CDC is providing this advance notice for clinical laboratories to have adequate time to select and implement one of the many FDA-authorized alternatives.
(筆者訳:2021年12月31日以降、CDCは、SARS-CoV-2のみの検出を目的として2020年2月に最初に導入されたアッセイである「CDC 2019-Novel Coronavirus(2019-nCoV)リアルタイムRT-PCR診断パネル」について、アメリカ食品医薬品局(FDA)に対する緊急使用許可(EUA)の要請を解除します。CDCは、FDAが認証する様々な代替手段のいずれかを選択・実施するのに十分な時間を臨床検査機関に提供するため、この事前通知を提供しています。)

Visit the FDA website for a list of authorized COVID-19 diagnostic methods. For a summary of the performance of FDA-authorized molecular methods with an FDA reference panel, visit this page.
(筆者訳:認証されたCOVID-19診断法のリストについては、FDAのウェブサイトをご覧ください。FDAリファレンスパネルを使用するFDAが認証する分子法の性能の概要については、こちらのページをご覧ください。)

In preparation for this change, CDC recommends clinical laboratories and testing sites that have been using the CDC 2019-nCoV RT-PCR assay select and begin their transition to another FDA-authorized COVID-19 test. CDC encourages laboratories to consider adoption of a multiplexed method that can facilitate detection and differentiation of SARS-CoV-2 and influenza viruses. Such assays can facilitate continued testing for both influenza and SARS-CoV-2 and can save both time and resources as we head into influenza season. Laboratories and testing sites should validate and verify their selected assay within their facility before beginning clinical testing.
(筆者訳:この変更への準備として、CDCは、これまで「CDC 2019-nCoV RT-PCR」アッセイを使用してきた臨床検査機関および検査場に対し、FDAの認証する他のCOVID-19検査への移行を選択・開始することを推奨します。CDCは、検査機関に対し、SARS-CoV-2とインフルエンザウイルスの検出・識別を簡便化する多重化方式の採用を検討することを奨励します。このようなアッセイは、インフルエンザとSARS-CoV-2の両方の継続的な検査を円滑化し、インフルエンザの季節を迎えるにあたって、時間とリソースの両方を節約することができます。検査機関および検査場は、臨床検査を開始する前に、施設で選択したアッセイを検証・確認する必要があります。)

結論

CDCは新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスを同時に検出できる新しい方式を推奨したが、この新しい方式にはPCR検査も含まれており、CDCがPCR検査の中止を決定した事実は無い。CDCは従来の方式のPCR検査も新型コロナウイルスの検出に有効であると明確に強調しており、精度が低いとはしていない。チェック対象のツイートは「誤り」である。

InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。
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